2016/03/19

運動麻痺の改善とプラトーまでの期間






脳卒中片麻痺患者の運動麻痺の最終帰結を予測する」では、非常に簡便な運動麻痺の予測方法を提示しましたが、どの程度の期間内に改善が望めるのかといったようなことは触れませんでした。
そこで、今回はこれに関してもう少し詳細に説明します♪



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■目次


 ▶下肢機能の予後
 ▶手指と上肢機能の予後
 ▶その他~予後を正確に予測するためのポイント~
 ▶臨床における運動麻痺の予後予測の使用方法
 ▶参考資料



下肢機能の予後


◎どの程度まで改善が望めるか
 「脳卒中片麻痺患者の運動麻痺の最終帰結を予測する」で述べた通り、BRSⅣ以上であればBRSⅥ以上の改善が望めます。

BRSがわからない方はこちらの記事をご参照ください。
(関連記事)
Brunnstrom Recovery Stage 運動麻痺の評価

◎改善が望める期間(プラトーになるまでの期間)
 Copenhagen Stroke Studyによる下肢機能の回復経過の報告が参考になります。
 この論文では、Scandinavian Stroke Scale(以下SSS)の下肢機能スコアで入院時の下肢運動麻痺重症度を評価し、以下の5 グループに分け下肢機能の回復が (累積率)95%の症例でみられなくなるまでの期間を報告しています。
SSSのスコアと下肢のプラトー期間

Scandinavian Stroke Scale 下肢機能スコアの採点基準
SSS下肢スコア
文献2より引用

 また、下肢の麻痺が重度であるほど長期間にわたって改善が期待でき、改善が期待できる期間はおおよそ3ヶ月程度であることもわかります。

 さらに、この報告では、入院時の下肢運動麻痺重症度別に最終的な歩行能力の帰結をみた場合、独歩が可能になる症例の割合は、麻痺なし78%、軽度麻痺66%、中等度麻痺28%、重症麻痺21%、完全麻痺群6%であったようです。

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手指と上肢機能の予後


◎どの程度まで改善が望めるか
 「脳卒中片麻痺患者の運動麻痺の最終帰結を予測する」で述べた通り、上肢はBRSⅣ以上であればBRSⅥ以上の改善が望める可能性が高いです。しかし、手指や上肢の回復は下肢の回復と比較して悪い傾向にあり、特に早期に改善が認められない症例では予後も不良です。

発症1週間以内のBRSレベルからみた最終的な改善レベル
・BRS1-2 →廃用手(ADL、上肢操作上で使用困難なレベル)
・BRS3-4 →早期予測は困難 1ヵ月経過観察
・BRS5-6 →実用手(ADL、上肢操作上で支障がないレベル)

<実用手までの回復が望める条件>
・発症時に完全麻痺ではない
・上肢各関節で随意的な筋収縮が確認できる(手指では特に手指伸展の有無)
・発症後早期に回復の兆候がみられる
・痙縮や連合反応が軽度
・手指の拘縮や変形、痛みが少ない
・重篤な感覚障害や運動失調がない
・高次脳機能障害や前頭葉障害がない
・体幹が安定していること
・発症後1ヵ月時点で全指の分離可(SIAS3)であれば5割、分離が軽度のぎこちなさで可(SIAS4)で8割が実用手(SIAS0であれば7割が廃用手)

◎改善が望める期間(プラトーになるまでの期間)
 Copenhagen Stroke Studyによる上肢機能の回復経過の報告が参考になります。
 この論文では、Scandinavian Stroke Scale(以下SSS)の上肢および手指機能スコアで入院時の上肢および手指機能の重症度を評価し、以下の3 グループに分け、これらのBarthel Indexの整容と食事動作の項目でみた上肢機能の回復が (累積率)95%の症例でみられなくなるまでの期間を報告しており、それぞれのプラトーに達するまでの期間は以下の通りです。
SSSのスコアと上肢および手指のプラトー期間

Scandinavian Stroke Scale 上肢と手指機能スコアの採点基準
SSS手指と上肢スコア
文献2より引用

 また、下肢と同様、この結果からは麻痺が重度であるほど長期間にわたって改善が期待でき、改善が期待できる期間はおおよそ3ヶ月程度であるといえます。

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その他~予後を正確に予測するためのポイント~


 脳内に機能分布がある以上、脳の損傷部位によって予後が異なることはいうまでもありません。よって、上記のような臨床所見に加えて、脳画像所見も加味すると予測精度は向上するでしょう。実際、予後予測を脳画像所見を加えるが予測精度を高めることは、統計的にも多数の論文で立証されています。

病巣部位と予後
・小さな病巣でも運動予後の不良な部位
 放線冠(中大脳動脈領域)の梗塞
 内包後脚
 脳幹(中脳、橋、延髄前方病巣)
 視床(後外側病変で深部感覚脱失のもの)
・病巣の大きさと比例して運動予後がおおよそ決まるもの
 被殻出血
 視床出血
 前頭葉皮質下出血
 中大脳動脈前方枝を含む梗塞
 前大脳動脈領域の脳梗塞
・大きな病巣でも運動予後が良好なもの
 前頭葉前方の梗塞・皮質下出血
 中大脳動脈後方の脳梗塞
 後大脳動脈領域の脳梗塞
 頭頂葉後方~後頭葉、側頭葉の皮質下出血
 小脳半球に限局した片側性の梗塞・出血

特に、運動線維が通る皮質脊髄路(錐体路)が密集して通る部分や皮質および中継核の損傷を呈すると予後不良となりやすいですが、連絡線維が疎である部分や連絡線維の損傷による障害は、代償経路などが残存することなどもあり比較的予後は良好です。
運動麻痺の経路である皮質脊髄路を脳画像で確認する方法に関しては、以下の二つを読めば理解できると思いますのでご参照ください。
(関連記事)
これだけでわかる!中心溝の同定方法!!
皮質脊髄路(錐体路)の走行と脳画像の見方

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臨床における運動麻痺の予後予測の使用方法


上記に脳卒中の運動麻痺に関する知見をまとめました。では、最後に実際の臨床での使用方法を挙げてみます。

①まずは運動麻痺の評価を行い、最終的にどの程度の麻痺になるのかをBRSで予測する
 例)BRSがⅣ以上かどうか?→BRSⅣ以上だった→最終的にはBRSⅥ以上の改善が望める!                  
(関連記事)
脳卒中片麻痺患者の運動麻痺の最終帰結を予測する

②SSS機能スコアのどれに値するのか評価を行い、到達期間を予測する。
 例)下肢BRSⅣ以上だった→最終的には下肢BRSⅥ以上になる可能性がある→SSS下肢機能スコア4点だった→プラトーに達する期間は6週間程度→6週間以下に下肢BRSⅥ以上になる可能性がある!

③脳画像で運動野や皮質脊髄路の直接的な損傷がないかどうかを見て、臨床所見の経過と照らし合わせる。
 例)中心前回の内側部(大脳縦裂付近)や皮質脊髄路の下肢が損傷していない、もしくは損傷が軽度→臨床経過も早期に麻痺の改善あり→予測は当たりそう!
(関連記事)
これだけでわかる!中心溝の同定方法!!
皮質脊髄路(錐体路)の走行と脳画像の見方

このような感じでしょうか。BRSⅣの場合はいいですね。

ただ・・既にお気づきかもしれませんが、これまでの記事でご紹介した論文の予測方法のみでは、BRSⅣ以下の場合はどの程度まで改善するかは明確にわかりません。

以下の記事で述べた論文の結果より、BRSⅣ未満の多くの場合はBRSⅥまでの改善は厳しいことが多いです。
(関連記事)
脳卒中片麻痺患者の運動麻痺の最終帰結を予測する
また、BRSⅣ未満の症例では、この論文の表のデータからも分かるとおり、最終帰結には若干ばらつきが見られる印象があり、何%かはBRSⅣ以上に改善することもあるようですね。

このようにBRSⅣ未満の場合、改善しない症例もしくは改善するかもしれないけどどの程度まで改善するのかわからない症例に対し、みなさんはどのように目標を立ててリハをしていますでしょうか。

どの程度まで改善するのか分からないのに、期間(目標)も設定せずにやってもキリがないですよね。
目標を設定していないと、やる気がある療法士ならリハ上限になるまでいつまで経ってもリハをやってしまいます。患者さんの方から先に「もうリハはいいよ。回復しないから。。。」といわれることもあるかもしれません。

ただ、BRSⅣ未満の場合でも、今回の記事で挙げたSSS機能スコアを使えば運動麻痺の回復が期待できる期間はある程度は設定できます。SSS機能スコアの点数が該当する期間が、概ね運動麻痺回復の目標期間と考え、麻痺改善のための治療を行えば良いのではないでしょうか。
例)BRS3→最終的な状態不明→下肢機能スコア4点→11週間程度が下肢の運動麻痺の回復期間


・・しかしながら、患者さんの中には、このような回復過程を呈する方ばかりではないですし、重症度が高くても改善を期待されており頑張っておられる方もおられます。

麻痺の評価は、プラトーになっているのかどうか、まだ改善する見込みがないのか、あるのであればその理由はどうすれば解決できるのかを十分に、そして慎重に、経過を追って考えていきましょう。

運動麻痺がどこまで改善が期待できるのか、それは、文献的なデータが決めることではありません。

身体の回復にはある程度の限界はあると思いますが、患者さんがどれだけ改善を望んで行動しているのか、また、私たちがどれだけそれに答えて最善を尽くしたリハが提供できるのかが最も関与してくると、私は考えています。

予後予測は、あくまで最低限の到達レベルとして私たちは認識し、それ以上の最善のリハ医療を提供できるようにがんばりましょう。
(関連記事)
脳損傷後の運動麻痺の回復メカニズム ステージ理論

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参考資料


1)Nakayama F, Jørgensen HS, Raashou HO, et al:Recovery of upper extremity function in stroke patients:The Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil 75:394-398, 1994.
2)Multicenter trial of hemodilution in ischemic stroke--background and study protocol. Scandinavian Stroke Study Group. Stroke 1985 Sep-Oct;16(5):885-90.
3)Jørgensen HS, Nakayama H, Raashou HO, et al:Recovery of walking function in stroke patients:The Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil 76:27-32, 1995.
4)三好正堂:臨床に役立つ脳卒中の予後予測 どこまで回復を望めるか 経験則を見直そう-臨床に役立つ予後予測の基礎知識.JOURNAL OF CLINICAL REHABIRITATION.2001;10(4):295-300.
5)前田真治,頼住孝二,他:脳卒中患者の屋外歩行能力獲得に関する要因の分析.脳卒中.1989;11(2):111-118.

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