2016/12/06

くも膜下出血⑤ リハビリテーション治療 






これまで、くも膜下出血について以下の内容をお話してきました。

(関連記事)
くも膜下出血① 疫学(発症頻度・性差と年齢・動脈瘤部位・予後)

くも膜下出血② 重症度分類( H&H/ H&K/ WFNS/ fisher )

くも膜下出血③ 発症機序、病態と経過~合併症を含めて~

くも膜下出血④ 臨床診断と医学的治療~注意すべき臨床所見~

今回は、くも膜下出血のリハビリテーション治療についてのお話です。

以前の記事内容を踏まえた内容になりますので、くも膜下出血の病態や医学的管理にあまり詳しくない方は先に上記の記事をお読みいただくことをオススメします。

これを踏まえていればくも膜下出血のリハ内容はあまり難しくないです。

ではさっそく!

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■目次


 ▶術前 急性期
 ▶術後 急性期~亜急性期
 ▶術後 慢性期
 ▶参考資料


急性期 術前


手術加療がなされていない状況のくも膜下出血発症後24時間以内は、動脈瘤の再破裂のリスクが非常に高いです。

そのため、この時期は視覚刺激を遮断する、痛みや血圧をコントロールするために鎮静挿管管理を行うなど、厳重に安静臥床で管理が行われている状態です。


リハ治療内容としては刺激が最小限になるように介入を行います。

会話や触るだけでも血圧変動が見られる場合があるので、このような場合は無理して会話しようとしたり介入しようとしたりする必要はないでしょう。


治療中に特に重要なのが血圧管理です。

医学的管理は、血圧が高すぎると再破裂のリスクがあり、逆に降圧しすぎると脳血流量の低下を招く可能性があるため、概ね140/90mmHg程度で行われるかと思います。

リハ中の血圧管理もこれと同様の範囲内で管理します。


上記はあくまで一般的な目標値ですので、患者の病態に合わせて主治医が指示している範囲内で管理を行うように注意しましょう。


なお、血圧は上記に示した範囲内におさまっていれば良いというわけではありません。

離床中の血圧管理は、ペナンブラ保護の視点から血圧の変動(低下)範囲もモニタリングしなくてはなりません。

特に、頭蓋内圧亢進が顕著な重症例や、脳実質の損傷・脳浮腫を呈している症例の場合は十分に注意しましょう。


血圧管理の範囲を以下にまとめたものを掲載しておきますので参考にしてください。



離床を中止すべき血圧基準

・140/90mmHg以上(もしくは主治医の指示範囲外)
・収縮期血圧80mmHg未満
・収縮期血圧が安静時より30mmHg以上低下
・平均血圧が安静時より20%以上低下

「離床を中止すべき」と記載しましたが、臥位の状態に戻してVitalが安定するようであれば、安定した後に再度離床をトライすることが多いです。



リハの具体的な介入内容は、意識がある場合は術後リハの進め方の説明や呼吸法の指導、四肢の自動運動の仕方などの指導を行っておきます。

意識がない場合は、ROMexや呼吸理学療法(確認程度)、看護師へのポジショニング方法伝達や術後管理方法、活動量の向上の仕方などについて詳細に検討し、他職種での関わり方を検討します。

どちらの場合も、そのときに直接的な介入効果を狙うというよりかは、術後のリハが円滑に進むように神経学的症状や患者のニーズを評価したり、具体的な計画を立てておくという感じで良いかと思います。

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術後 急性期~亜急性期


術式の多くは開頭クリッピング術かコイル塞栓術が選択されると思いますが、どちらにしても手術して破裂動脈瘤への血液の流入を予防しているため、再破裂のリスクは格段に下がっています。

ただし、開頭クリッピング術と比べてコイル塞栓術の方が確実性は低いので、コイル塞栓術の場合は術後の動脈瘤の状態についての情報収集やリハ時の血圧管理は十分に注意しましょう。

血圧は上げすぎると再破裂を招く可能性があるだけではなく、過度な脳血流量増大や脳圧亢進を招きやすいため、どちらの手術の場合も頭蓋内圧が問題となる重症例の場合には上昇しすぎないように注意しましょう。



付)忘れ易いが注意しなくてはならないこと!

ここで血圧管理以外にも特に注意していただきたいことが一つあります。

術後は鎮静・鎮痛、挿管して人工呼吸器管理をされていることが多く、無気肺や交感神経過剰緊張状態やInを多めにすることでの(神経原性)肺水腫などの呼吸機能低下・呼吸器合併症が併発し易いです。

そのため、このような症例に対しては呼吸理学療法を行うことも多いですが、頭蓋内圧をあげないように十分に配慮してプログラムを考えて行いましょう。

ここでの頭蓋内圧を上げる例としては、頭部を20°以下に下げることや、呼吸介助などで胸郭を過度に圧迫することなどです。

呼吸器合併症はS6やS10領域に高発し、リハ中に見つけた場合は排痰肢位を取るために頭部を下げたくなることもあるかもしれませんが、頭部を下げるデメリットが高いことは常に頭にいれておきましょう。

これをどうしても行う必要がある場合の対策としては、頭蓋内圧をモニタリングしながら治療を行うことです。

頭蓋内圧はICPモニターが入っていればこれを見れば良いですし、ない場合は頭部を下げた状態でドレーンのゼロ点を合わせて排液を見たりするなどの工夫をしましょう。

そして、慎重にモニタリングしながら体位を変えてみたり、これで問題なければ胸郭に軽い圧を加えてみるなど、頭蓋内圧の変化をみながら徐々に治療の良し悪しを判断していきましょう。

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再破裂の他に術後で注意する必要があるものとしては、脳血管攣縮、肺合併症と心機能障害が挙げられます。

まず脳血管攣縮ですが、脳血管攣縮は72時間以降から14日程度(ピーク8~10日)に発症しやすいため、この時期には高頻度にみられます。

脳血管攣縮が発症するとその血管の支配領域の脳血流量の低下が起こり、脳虚血症状が出現することが多いです。

脳虚血症状の臨床所見は脳血管攣縮の発症箇所によって様々ですが、術後は3D-CTAや脳血流の評価が適宜行われていますので、これらの検査もリハ前にチェックしておき、血管攣縮が強く発生している血管を同定しておくと良いです。

脳血管攣縮が発生している血管を同定することができていると、血圧(脳血流)が下がったときなどにはその血管の支配領域が虚血状態になりやすいという推測ができます。

つまり、これは血圧が低下したときに出現し易い臨床症状を予測しておくことができるということになりますので、「こんな症状を認めたら離床は直ぐに中止する」という基準をあらかじめ用意しておくことができ、離床中に早急で適切な判断を下すことができる材料になります。

3D-CTAや脳血流量の評価は割愛しますが、このに画像で評価を行います。

くも膜下出血⑤ リハビリテーション治療 3D-CTAとPerfusionによる脳血管攣縮の評価

3D-CTAの画像をぱっと見てお分かりかもしれませんが、発症時と比較して、術後の発症から10日目は脳血管攣縮で全体的に血管が細くなっていますね。

特に、左椎骨動脈~中大脳動脈、左後下小脳動脈の狭小化(脳血管攣縮の所見)を認めており、perfusionではその支配領域となる箇所の血流低下や機能低下所見を認めています。

この症例の場合は顕著な神経学的症状を認めませんでしたが、発症当初から意識障害が遷延し、脳血管攣縮の治療と安定化に伴い徐々に意識障害の改善を認めました。

脳血管攣縮発症時の症状の発現は、脳血管攣縮の部位、脳血流低下の程度などで異なることがありますが、多くの症例で共通して意識障害や認知機能低下が発生しやすいで、リハ介入時には意識レベルの評価を確実に行っておくと良いかと思います。


この時期のリハの治療内容は、脳血管攣縮の治療管理のため、主治医の考え方によって各施設で安静度が異なる現状かと思われます。

脳血管攣縮期は、以前の記事でも述べた通りにTripleH療法が行われ、過度に血圧低下を下げたり脳圧を上げすぎたりしないように脳室や脊髄ドレーンを用いた頭蓋内圧の管理、In-Out(水分)バランスの管理などが行われています。

よって、医師によっては離床する時期ではないと考えられる方もおられるようです。

しかし、ここで問題になるのは、頭蓋内圧が上がりすぎること、脳血流量が下がりすぎること、ドレーンをクランプしすぎて脳脊髄液の管理が行えないこと、ドレーンが抜けることなどなどが挙げられますが・・・逆に言えばこれらもちゃんと管理すれば離床は行えますね。

僕の働いている病院では、これらを療法士が管理できるように医師連携して離床基準を作成しておりますので、抜管後より安静度の制限は特にありません。

Vitalが安定していれば患者に合わせて進められるところまで離床やリハプログラムを進めるという状況です。

勿論、例外はありますが、ドレーンが入っていても歩ければ歩きます。

また、リハでVitalと動作能力を評価し、看護師で管理・介助ができる状態の症例であれば日中もドレーンをクランプできる際に車いすに乗車していただいたり、トイレも介助下で普通のトイレまで歩いていって行っていただいています。


このようなことをしている理由は簡単です。

脳血管攣縮期は2週間程度ありますので、患者さんを無理に寝かせていると廃用症候群が進むからです。

また、中等症~重症例の場合には、ベッド上での自主練習もできない場合がありますし、心肺機能が低下していたり、全身状態も軽症例と比較すると不良であるため、廃用症候群だけでなく二次的合併症も発症する危険性が高まります。

脳血管攣縮の治療の阻害にならないように管理できるのであれば、積極的に離床やリハプログラムを進めて患者さんを早期に良い状態まで改善させる(早期社会復帰)というのが当院のスタンスです。

くも膜下出血のリハ治療は、脳血管攣縮期にこのような介入が行えるかどうかが一番のポイントです。

まとめると、軽症例では早期立位・歩行による廃用症候群予防、中等症~重症では座位時間や頭部挙上時間の確保などで廃用症候群予防・二次的合併症、さらに麻痺などを呈しているのであれば1st Stageなので麻痺肢の積極的使用による改善(損脳の賦活)を、Vital管理を行いながら進められるところまで進めるということになります。

なお、廃用症候群(骨格筋に関して)やStage理論に関しては以前の記事で掲載しましたので、こちらをご参照ください。筋力低下の予防は、一応この記事の投与量を目標に当院では実施しています。
(関連記事)
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筋力低下を予防するための運動量は?
脳損傷後の運動麻痺の回復メカニズム ステージ理論



付)脳血管攣縮期に離床できない場合の骨格筋の萎縮予防

脳血管攣縮期に十分な立位以上の治療ができない場合に、有用な方法をご紹介します。
上肢・体幹の骨格筋予防に関してはヘッドアップや寝返り、臥位で運動療法のなどである程度対応できるかと思いますが、下肢に関してはなかなか十分な負荷量がかけられません。

そこで使用するのが電気刺激療法です。

骨格筋の萎縮予防に対する電気刺激療法で現在よく使用されており、効果も提示されてきているのがオートテンズプロ(B-SES:ビーセス)です。

オートテンズプロ(B-SES:ビーセス)


B-SESは、脚にベルト電極を巻きつけそのベルト間に電気を流して筋を刺激するような機器です。

この機器の凄いところが、腰から下の下肢全体を深層筋も含めて一気に刺激することができるというところです。

さらに、電極表面積が大きくされている分、強い刺激を加えているにもかかわらず痛みが少なく刺激ができるので、これまでの電気刺激の機器とは比べ物にならないぐらい効果的に刺激ができます。

骨格筋の萎縮予防に廃用モードというものも搭載されていますし、集中治療室での使用の安全性に関しても検討されているようです。

当院でも、医師に機器の使用可否を確認し、ベッドサイドにこの機器を持っていってモニタリングしながら治療に併用しています。

くも膜下出血⑤ リハビリテーション治療 集中治療室での電気刺激療法 B-SES


くも膜下出血では発症後の高血糖を併発することが多々あります。
術後の高血糖が患者の予後を左右することは既にご存知かと思われますが、血糖の安定化にも効果を期待できる機器であり、個人的にはこの機器の今後の成果報告を楽しみにしています。


しかしながら、この機器は非常に高額であり、どの病院でも簡単に手に入るものではありません。

各施設伴になにかしらの電気刺激機器は置いてあることと思いますので、廃用性の変化が生じやすく、動作能力に大きく影響する重要な箇所を置いてある機器で局所的にでも良いので治療介入しておくと良いかと思います。

ちなみに、当院では各症例に合わせた様々な治療を提供するため、以下の図のように色々な機器を置いています。

くも膜下出血⑤ リハビリテーション治療 電気刺激療法の各種機器

電気刺激療法に使用する機器はピンキリで、血圧計やサチュレーションモニターを買う程度の額で購入できるものもありますので、導入することも検討してみてもいいかもしれません。


(関連記事)
くも膜下出血の交感神経過剰緊張状態の評価にStress indexが有用





脳血管攣縮に続いて、急性期~亜急性期に特に注意すべきものの最後が肺合併症と心機能障害です。

これに関しては以前の記事でも前述でも少し触れました。

呼吸や循環に関して詳細に触れているとキリがないので割愛しますが、くも膜下出血後は頭蓋内圧が顕著に亢進した後(適切に管理されていれば・・)で、さらに手術後ですので、過剰なストレスで交感神経が過剰緊張に興奮しており、カテコラミンが大量放出されている状態です。

そして、循環血液量増大、人為的高血圧で医学的管理が行われている状況です。

他にも、発熱を伴っていることが多く代謝が亢進した状態であったり、アルブミンなどの膠質浸透圧を保つものも低下していることが多い状態です。

これらの影響で心臓はパンパンに膨れ上がって常時負荷がかかっており、肺は血管透過性が亢進したり浸透圧の関係上、水が出て貯まっていきやすい状態となっています。

意識障害も伴っていることが多いのでただでさえ換気は少ない肺胞たちは水浸し、寝かせていると機能的残気量は少なく下のほうに水が貯まります。そして、心臓は大きく重たくなっているので、臥位の状態では背側底部(特に心臓があるS10)が著しく圧迫されて無気肺が出来易い状況です。

鎮静がかかっていれば横隔膜がゆるゆるになるのでさらにやられやすいです。

意識レベル低下に伴い嚥下機能も低下しているので、誤嚥もする可能性が高いです。

呼吸器合併症の発症にアンテナを張って常に評価しておくことと、発症しないような介入が必要です。

また、離床時には心負荷が加わるので、不整脈の誘発や増大、過負荷(ストレス)によるたこつぼ心筋症や心不全発症に留意しなければなりません。

心機能が低下すると、離床ができないだけではなく呼吸機能をさらに落とすことにつながりますし、最も肝心な脳循環に悪影響を及ぼしますので特に留意が必要です。

術前には手術や術後管理に耐えうるだけの状態かどうかを見るために心機能評価を行っているはずなので、必ず確認をしておきましょう。

そして、介入前には、In-Outバランス、血液検査データ(CRP・WBP、BNP、Cr・BUN、肝機能など)や尿量、胸部Xp、ベッドサイドでモニターやフィジカルアセスメントを行うなどの評価を欠かさず行ってから介入しましょう。

なお、離床は怖いので起こさないという選択肢もありますが、心肺機能は低下していきますので、動ける状態なら早期から積極的に全身的な活動を主体にリハプログラムを進めましょう。

臥床時間が立てば経つだけ自律神経機能も低下しますので、期間が経ってしまうと起立性低血圧も発症し易くなって離床時の脳循環の管理も難しくなります。


介入時の注意点をまとめると以下のようになります。

・リハ前、リハ中、リハ後の全身状態評価
・不整脈、たこつぼ心筋症や心不全に留意
・呼吸器合併症の発症有無と対策実施(常時適切なポジショニング)
・リハ中や日中の離床時間確保


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術後 慢性期


慢性期に関するリハは、水頭症以外に特に注意点はありません。
軽症例では、上記までの時期の管理とリハが上手くいけば直ぐに退院できます。
中等症~重症では、症状があればそれを改善するリハを行うだけですね。

水頭症の症状は以前の記事に掲載しましたので、まだご覧になられていない方はご参照ください。
(関連記事)
くも膜下出血④ 臨床診断と医学的治療~注意すべき臨床所見~



いかがでしたでしょうか。

長い記事になりましたが、最後までご観覧いただきありがとうございました。

以上で、くも膜下出血のリハに関する記事は完結です。

僕も色んな書籍や文献、ネットを拝見させていただいていますが、くも膜下出血に関するリハに関して詳細に掲載されているものはほぼないのではないかと思います。

おそらく、くも膜下出血自体の症例数が少ないことが要因かと思われますが、この情報が少しでもご覧になられている方の臨床に役立てばと思いながら書いてみました。

ありがとうございました。

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参考資料


1)病気がみえる(7) [ 医療情報科学研究所 ]
2)理学療法リスク管理マニュアル第3版 [ 聖マリアンナ医科大学病院 ]
3)脳卒中理学療法の理論と技術改訂第2版 [ 原寛美 ]
4)前田真治:ペナンブラ(penumbra).PTジャーナル.41(5 );2007:405
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