2015/11/08

くも膜下出血の発症の危険因子と再発予防






くも膜下出血の発症率は、人口10万人あたり20人、性別は女性に多く(男女比1:2)、発症年齢は40-60歳代に多いです。

動脈瘤破裂によるくも膜下出血例の発症後の予後は、一般的に1/3が死亡、1/3が後遺症残存、1/3が完全回復といわれており、この確率からも、くも膜下出血は極力発症は避けたい病気ともいえます。

このような死亡や後遺症を残す可能性が高い理由はくも膜下出血の病態にありますが、これに関してはまたどこかで触れます。

今回は、くも膜下出血の発症の危険因子と再発予防に関する話です。



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■目次


 ▶患者さんは再発予防の方法を知りたがっている?
 ▶くも膜下出血の発症機序と再発予防の重要性
 ▶くも膜下出血の危険因子
 ▶再発予防指導の実践
 ▶参考資料



患者さんは再発予防の方法を知りたがっている?


病院勤務でリハビリをしている私たちは、発症する前の患者さんと関わる機会は少ないですが、発症した患者さんとは関わる機会が多いですよね。

そして、私たちが関わるこの患者さんは、発症時に今まで経験したことがないような突然の激しい頭痛や嘔吐、意識消失など、生命の危機を感じるような経験をしています。
また、治療が上手くいって一命を取り留めた場合でも、その後はつらい集中治療管理や社会復帰のために運動療法を頑張ってやらなければなりません。

この間、患者さんはもうこんな思いはしたくないから「生活を改めなければ・・」と思っていることが多いのではないでしょうか。

患者さん自身が、再発しないためにどうしたらいいのか?といった情報を求めておられることが多いので、予防方法の知識はしっかりもっておくべきでしょう。

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くも膜下出血の発症機序と再発予防の重要性


くも膜下出血の原因は、脳動脈瘤破裂が85%を占めています。

脳動脈瘤は、脳動脈の壁の一部が拡張してできるので、血行力学的ストレスがかかりやすく、脆弱な箇所である血管分岐部にできやすいと考えられており、くも膜下出血は分岐部のこの膨れ上がった動脈瘤が破裂することで発症します。
動脈瘤の図 単発

つまり、くも膜下出血を発症しないようにしようと思うと、できる限り動脈瘤を作らないように予防しないといけません。

しかしながら、脳動脈に以下の図のようにたくさんの分岐がありますね。
ウィリスの動脈輪

くも膜下出血を発症し、仮に破れた動脈瘤を治療したとしても、この沢山ある分岐部に再び動脈瘤ができないようにしないといけません。

つまり、動脈瘤ができやすくなるような根本的な原因をどうにかしなければ、再び動脈瘤ができてしまい、くも膜下出血を再発する可能性が高くなるということになります。

これだけ話せばお分かりかと思いますが、くも膜下出血の再発予防を行うためには、発症に関わる危険因子のコントロールを行う指導をすることが重要性ということになります。

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くも膜下出血の危険因子


くも膜下出血の発症リスクを高める危険因子を以下の表に載せます。
患者像や発症割合のイメージをしやすくするため、図も一緒に掲載しておきますね。

SAH危険因 表
SAH危険因子 イメージ図

図 SAH危険因子


これらの危険因子をみると、改善や介入ができるものは、赤字で示した喫煙や飲酒の習慣、高血圧ですね。

また、「喫煙」、「高血圧」、「飲酒」のどれも重要な要因ですが、特に重要なものは単独でも発症リスクが高い「飲酒」 と、その他の危険因子と組み合わさると顕著に発症リスクが上昇する「高血圧」 ということがわかります。

高血圧+喫煙では、発症リスクが10.5倍と恐ろしい数字になっています。


さて、危険因子がわかりましたが、これらをどうにかしなくては再発予防は難しいですね・・・

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再発予防指導の実践


くも膜下出血の危険因子がわかりました。

あとは、これを患者さんに教えてあげるだけ!です。

ただ、この伝え方が非常に難しいですね。

あなたは、ただ単に「喫煙、飲酒、高血圧が危険因子なので気をつけましょう」と指導を行いますか?

この程度の情報であれば、一般の方もご存知の方はおられますし、脳卒中の治療に携わる別の職種でも知っていて指導できます。

ただ単に気をつけましょうという指導を行うと、患者さんは「自分もそんなことはわかっている」と感じるかもしれませんし、他職種からも何度も「気をつけましょう」「やめましょう」という指摘をされていた場合は、そういう言われ方をするだけで再発予防に対する意識が低下してしまうかもしれません。

冒頭にも述べましたが、患者さんは死に直面するような状況やつらい経験していることから、僕の経験上では「今後はしっかり気をつけていきたい」という気持ちになっていることが多いです。

指導を行う場合は、できるだけ再発予防の重要性とリスクが理解でき、具体的な方法を提示するように心がけましょう。

まずは、前述に説明したように、くも膜下出血は脳動脈瘤が原因で起こり(これが原因の場合)、脳には沢山の分岐があることから動脈瘤は危険因子をできるだけ減らさなければ再度できる可能性がある旨を伝えます。

次に、危険因子(喫煙、飲酒、高血圧)にはどの程度のリスクがあるかを知っていることは少ないと思うので、その程度をお伝えし、行動変容を促すように説明しましょう。
たとえば、「あなたは喫煙習慣があることに加えて高血圧があるので、これがない人に比べてくも膜下出血の発症(再発)リスクは10.5倍になります。喫煙をやめるだけでも、このリスクは2.8倍まで低下しますので、今回のことをきっかけに禁煙をしてみてはいかがでしょうか。今回は、幸いにも手術が成功し、後遺症もなく退院できますが、くも膜下出血という病気は発症すると1/3が死亡、1/3が後遺症が残るといわれていますので、極力再発リスクを減らすためにも行動を起こす必要がある機会だと思いますよ。」というような感じですかね。

いかがですか?これだけでも、ただ単に「気をつけましょう」というだけよりもよさそうじゃないでしょうか。

しかしながら、まだ足りません。

最も重要になるポイントは、退院して生活に戻ったとき、実際には上記をどのように気をつければよいのか?というその人の生活上での具体的な方法を提示するというところです。

生活場面での具体的な実践方法を知らなければ、何をどうしたらいいのかわからいないのでどうにもしようがないです。


医療機関で危険因子を減らするように指導されたが、
結局はやり方がわからないから行動も伴わず・・
元気になるにつれて意識も薄れ・・
結局は前と同じ生活に戻ってしまい・・・
気付いたら再び病院のお世話になってしまった。


ということはよくある話ですので、こうならないように具体的な方法を指導できるように普段から引き出しを沢山用意しておきましょう。

そして、これを患者さんの生活スタイルに合うように、一緒に考えて検討するような指導を行いましょう。

これを「飲酒」を具体例として挙げてみましょう。

まず、お酒を辞めましょうと言われて、ぱっとお酒を辞めれれば良いですがそういう人ばかりではありません。

付き合いでお酒を飲む場にいかなければならない、毎日のお酒が我慢できていても週末には我慢した分の飲酒を行ってしまう、適量のお酒であれば体にも良いという情報を聞いたから飲む量を減らすことにする等、指導後の行動は人それぞれかと思います。

「お酒を辞めましょう」ではなく、危険因子となる量は摂取しないことを指導します。

ただ、「1週間に150g未満の飲酒に留める」と言われてもすぐにイメージはできないので、飲む量「mlに換算」したものを提示しましょう。

換算式は以下の通りです。
お酒の量(ml)×[アルコール度数(%)÷100]×0.8

つまり、5%のビールであれば、?ml×[5÷100]×0.8=150gを計算して?を求めればよいので、計算すると3750mlです。

これは、350mlで5%の缶ビールであれば10.7本に相当します。

毎日350mlの缶ビールを1缶飲むのは大丈夫そうですが、1.5缶飲むと危険因子となる摂取量を超えます。

よって、晩酌を350mlの缶ビールで行っている人であれば、お酒は「1日に1缶まで、1週間では10缶までに留めるようにしましょう。お酒の付き合いは大事ですが、このを超えた量を飲み続けると、お酒を飲むことで再発の危険が高くなりますので、お酒はこの量で調整して飲むようにしましょう。」という風な指導になるかと思います。

上記のように、過剰な制限をしてライフスタイルを全て崩すのではなく、
どの程度までなら大丈夫か?
を具体的に提示することで、危険因子のコントロールを長期的に継続してもらえるかと思います。

ただ単に辞めるよういに言われて我慢させられてもストレスが溜まりますし、お酒を飲んでしまったときには「今日は仕方ないか!」などといった心境で限度を超えて飲みすぎてしまったり、せっかく辞めていたのに気持ちが途切れてしまってドロップアウトしていまう方もいると思います。

もちろん、お酒を飲むと抑制がかかりにくくなりますし、塩分摂取量も増えることが予想されるため、辞めるに越したことはないのは当然ですが、継続できなければ意味がありません。

患者さんのストレスを最小限にしつつ、危険因子のコントロールを適切に長期的に継続していただくことを念頭に、情報はこのような具体的でその人の生活スタイルに合わせてできるようなものを提示しましょう。

「高血圧」に関しても同様に、服薬や摂取量制限の指導に加えて、私たちは動脈硬化の予防・改善効果がある運動療法の指導を行います。

決まりきったFITT(頻度-強度-時間-種類)の提示を一方的に行うのではなく、患者さんの一日・一週間の過ごし方などを詳細に聴取しながら、どの程度の運動をいつの時間にどのように実施していくのかといた指導を、ご本人主体に話を進める形で関わらせていただく姿勢が常に必要かと思われます。

・・かなり長くなりましたが、

再発予防に対する患者さんの十分な理解や行動変容のきっかけを作ることは、退院間近に一気にはできません。

発症当初からラポールを形成しつつ、再発予防の指導を適宜行っていきましょう。

追加ですが、毎回上記のようアルコール量の計算をするのは面倒なので、1週間に150gに相当する一日あたりのお酒の量を換算した表と図を載せておきますのでご参考までに・・・
表 1週間に150gに相当するお酒の量

図 1週間に150gに相当するお酒の量


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参考資料


1)脳卒中治療ガイドライン(2015) [ 日本脳卒中学会 ]

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